2008年 06月 24日
サファリ-429 あかざ えり という女 |
岡秀行さんは初めてお会いしたのですが、
初めてという気がしなかった。
岡さんの人懐っこい笑顔はたちどころにみんなを友達にしました。
普通オーナーはどこか「俺の店、俺の財産、俺の力」
みたいなパワーを感じて、それは嫌味に感じないとしても、
どこかひれ伏さずにはいられないような威厳があるものです。
しかし彼は全てを受け入れる包容力に満ちていて、
実はそれがいちばん強いことであって‥‥‥‥
その岡さんが、みんなに向かって感謝の気持ちを
雑談するように話し始めました。
江里さんを讃える言葉はほんの少しだったような気がする。
このお店がこのように出来るために、
このあかざえりちゃんがどれほど頑張ってきたか、
切々と話し始めました。
この人は偉大な施主だなぁ‥‥と思いました。
素晴らしい空間---------素晴らしい物語
をプレゼントされて、江里さんに感謝している人のなかで、
えりちゃんの存在を認めないひとはいない。
江里好継を太陽に例えると、あかざえりは月でした。
時おり姿を隠すこともあるけれど、必要なときには必ず出て来て
空虚な闇を神秘的に照らし、彼の空間に豊かさをもたらす。
月があるおかげで地球の全ての生態系は
命の繰り返しを確実に未来に繋げることができる。
月があるおかげで地球の水は絶え間なく動き、
地球に元気と潤いを与える。
あかざえりは江里意匠建築工房の専属コーディネーターでありましたが、
それは単なるしつらえや化粧のレベルを超え、
江里さん自身、彼女に嫉妬すると言っていた通り、
言葉では表現しきれなかった柔らかい感覚、
人間味のある部分、ホッとする部分、優しい気持ちになる部分を、
あかざえりの感性が物語の全編を通して鼓動しています。
もし、あかざえりが居なかったら、江里さんの空間がどうなっていたのか、
それは私には判りません。
しかし弟子として陰ながら彼を支え続け、
他の誰にもできない役割をしていた彼女の存在は
とても大きかったと言えると私は思います。
それを誰よりも深く理解していた岡さんは最後に叫びました。
えりちゃん頑張れ!えりちゃん頑張れ!
あの夜、みんな江里さんに感謝し、彼の旅立ちを惜しんだけれど、
同時にあかざえりの出発を祝福する会でもあった。
これから彼女がどんな世界をこの地球上に残すか、
同時代を生きるものつくりとして、
私は楽しみに見つめていたいと思っています。
吾忘の奥の小上がり席は母の胎内のような落ち着いた赤の左官で
仕上げられている。
その鏝(コテ)さばきは、まるで目をつぶり、素手でまさぐったような
情念が込められた迫力がありました。
一部、天井の小さな面に、グレーで着色された同じ左官の面があった。
見事に同時対比の効果によって、そこには緑色が浮遊していて、
そんなことは江里さんにできるはずもなく、
江里さん不在で修羅場と化していた現場に立って
様々を決定していたえりちゃんの仕業に違いない。
江里さんは怒ったかもしれないけれど、来れないのを良い事に
舌を出しながらえりちゃんが決めたのだろうと察し、
ついニヤリとしてしまった。
あかざえりの印象的な言葉。
「男性に口説かれたくなるようなお店が良いお店〜〜♪」
確かにそうだ。そんなお店はいつまでも愛される気がします。
by utyuuinu
| 2008-06-24 10:07
| 人