2007年 07月 01日
サファリ-205 あれの出番-4 最後の夜 |
建築は屋根ごと半分取り払われていたので、空間の広がりを感じました。
囲炉裏端に腰掛けて開け放たれた夜空を眺めました。
奇妙な風景です。
いつのまにか雨が上がっていましたが、
昼の間に激しく降った雨が茅葺き屋根に染み込み、
部屋のそこかしこにポタポタ垂れて、壮大な交響曲のように聞こえます。
私は誰かに言いました。
「ヒドイ雨漏りですねぇ‥‥‥これの修理には1ヶ月はかかる。」
呟いた言葉が演劇のセリフのように暗闇に染み込み、
ここがまるで舞台のように感じました。
若い頃渋谷のパルコ劇場で観た仲代達也の「どん底」を思い出した。
この家の最後の住人となった私は
もう手の施しようの無いほどの瀕死のこの家で、
人間としてやってあげられることが何か考えたけれど、
結局どうしていいかわからず、途方にくれてしまいました。
ふと上をみると、神棚に残された榊を生ける白い花瓶が目にとまりました。
庭に降りてススキの穂を1本摘んできて挿し、
もう神様のいなくなったがらんとした神棚に拍手を打ちました。
雨はすっかり止んで、空には冴え渡る冷たい月が私を恨むように見下ろしていた。
どこかでコオロギが淋しく哭いていました。
by utyuuinu
| 2007-07-01 04:55
| 作品/intermezzo 間奏曲