2008年 05月 31日
サファリ-414 江里好継という男-7 |
象徴されたひとつのテーマ、人間をモチーフにした具象的な彫刻が
空間の要所要所に配置され、柱や壁や手摺、床など多くのエレメントを
任されたビッグプロジェクトでした。
半年以上、打ち合わせにも何度も福岡に足を運んで準備していた。
それがある日、たった1枚のファックス
「あの話しは無くなってしまった。残念です。」
で、終わりになってしまいました。
何を言い訳しても仕方が無い。
全てを一緒に描いて進めてきたので、江里さんの無念、申し訳なさも、
そのファックスには滲み出ていた。
男らしい、いかにも江里さんらしい一言でした。
自分の中に時間をかけて宿した人間をテーマにした作品。
学部の卒業制作以来の具象彫刻だったこともあり、
計画が無くなったからと言って、「ああそうですか」と、
簡単に消し去ることは出来なかった。
もう、お腹は大きくなり始めていたので、中絶することは不可能でした。
それからさらに1年後くらいだったか‥‥‥
作っても納めるところの無い作品を、私は1ヶ月ほどかけて制作し、
最後にそれを真鍮の鋳物にしました。
黒いビロードが敷き詰められた木箱に入れて、
クリスマスに彼に送りました。
「今を生きる」という、2対の女性像です。
ひとつは「尊敬」、もうひとつは「感謝」です。
余談ですが、この作品はシリコン原型を残してあったので、
新しい台座を付けた状態で、もうひとりの私が敬愛する建築家、
椎名英三さんが今年の秋に作る住宅の浴室のガラスドアの引き手に
使われることが決まっています。
同じ作品がふたつの場所にあり、それぞれの場所で
穏やかに存在してくれることを願っています。
by utyuuinu
| 2008-05-31 08:51
| 人