2007年 08月 24日
サファリ-252 アフリカの記録-11 |
私はモチモの木の幹について注意深く観察し、
様々な空想をするのが好きだった。
幹の表面は人間の肌によく似ており、
サバンナにどっしりと立ち尽くす巨人のように見えるときもあれば、
イタリアの荘厳な礼拝堂の祭壇に、彫刻のように佇む枢機卿が纏う
流れるような衣のようにも見えたし、
大地を引き裂き、流れ出る溶岩のような。
深海に住む幻の海獣の聖なるエラのようにも‥‥‥‥
サファリの道標のように立つモチモチの木を、
私はしばしば一息入れる峠の茶屋として、
また、魔笛が聞こえる冷たい風の夜には温もりのある宿として
御厄介になった。
老木に寄り掛かって股の間の地面にサバイバルナイフを突き刺し、
小さな焚き火に手をかざしながら天を仰ぐ。
ざわめく枝の隙間から、悲しみに堪えきれず、
また喜びに溢れこぼれてしまった星の涙がひとすじに流れ、
再び闇に染み込んで行くのを見た。
昼のあいだに干上がった川底を掘って得ることに成功した泥水で
コーヒーを湧かす。
村人にもらったキリマンジャロの生豆を鍋のフタで煎って
岩の上で砕いて泥水で煮て、履いていた靴下で漉して、
血のように濃いコーヒーを飲むことは、
1日無事に歩き通すことができた感謝の儀式のようにありがたいことで、
それをゆっくり口の中で転がしながら、
村人に譲ってもらった小さな古い「カリンバ」
という楽器を指ではじく。
カリンバの音色は丸い丘や古い谷の草木や岩の上を
小さな黒人の妖精となって飛び歩いた。
どこか遠くから聴こえてき、また再びどこか遠くへ去って行く
昔話のように、いつまでも鳴り響いていた。
弱くなった炎の中に薪を突っ込むと火の粉がパチと喜び、
はしゃぎながら蛍のように闇に飛び立ち消え去った。
またひとつ星が涙をこぼした。
小さなオレンジ色の炎が宿る私の瞳は、幽かに微笑んでいる。
by utyuuinu
| 2007-08-24 03:00
| 旅